レアッシの小学4年生の練習の作り方と戦術公開 〜サッカーの戦術は低い年代から始めるべき!〜

現在僕が担当しているU-10・1stチーム(小学4年生)。15名のグループで日々練習を行なっていますが、日々の1回1回の練習はそれぞれ細かく設定されています。

ある程度継続して行う練習もありますが、成長レベルに合わせて同じ練習でも求められる戦術が異なったり、選手のやるべきタスクが変わったりします。
当然、いつも同じ練習をひたすら繰り返すことはありません。

レアッシでは『選手が将来高いレベル(特に海外)でプレーするためには低い年代からの戦術トレーニングが必須』と考えています。
そのためには「チームとしてトレーニングすること」が重要で、チームとしてのプレーモデル共通認識などが最も重要です。

「個人の能力を向上させて、それが集結すればチームのレベルが上がる」といった考えは、専門的に言うと「要素還元論」的な発想で、サッカー界では古い考えになるのではないでしょうか。
そうではなく、「チームのレベルをあげることができれば、個人は上手くなって行く」という考えもあります。
(指導者の方ならすぐ理解できると思いますが、今は過去のものになりつつありますが戦術的ピリオダイゼーション理論のイメージです)

日本でよく議論される「ジュニア年代に戦術は必要か?」これに対して「否」と答える場合には、「戦術とは何か?」という定義がほとんどされてないだけでなく、指導者自身が「戦術を整理できていない」ケースが多いのではないかと感じています。

今回は日々の練習メニューをどのように作っているか、僕が現在U-10(小学4年生)で取り組んでいることを紹介したいと思います。

戦術の体系図(サッカー言語の体系化)

1回の練習をどのように作成しているかを書く前に、必要になるのが「サッカー言語の体系化」です。
この言葉の整理から1回の練習を組み立てています。言い換えれば「言語の整理がない」と練習を上手く組み立てることができません。

日本とスペインのサッカーの違いに「言語化」というものがあります。日本では曖昧なサッカー用語もスペインでは体系化されているというのはよくある話です。
最近は「言語化する・しないほうが良い」など議論が次のステージに進んでいることもありますが、一度整理するのは良いことだと思います。

例えばボールホルダーに対しての「サポート」という言葉や「ドリブル」という言葉はどのようなカテゴリーに含まれるのでしょうか?
「プレッシング」「カバーリング」「壁パス」「前進」「身体の向き」、実に多くの様々な言葉がサッカーにはありますが、それをどのように体系付けるか。

下の写真は留学中に僕が作ったサッカー用語の体系図です。もちろんそれから数年経って作り直さなければいけない部分もありますが、大まかな整理として今でも使っています。
企業秘密なので敢えて黒く塗ってみました(笑)
と言うのは半分冗談です。

解説します。

まずは、練習の前提として4つのフェーズ(図でいうサブフェーズの部分)から始まります。
①「組織化された攻撃」
②「組織化された攻撃から守備への切替」
③「組織化された守備」
④「組織化された守備から攻撃への切替」
の4つのフェーズからそれぞれの下にくる「チーム全体のアクション」の部分が「練習の目的」になります。
ここまでは簡単ですが、その次は監督によって考え方も変わると思うのですが、僕の場合は「組織化された攻撃」というサブフェーズには「4つの集団的アクション」を設定しています。
この「集団的アクション」が1つの練習の「目的」になります。

練習メニューの構成は
①「目的」(チーム全体のアクション)
②「内容」(戦術コンセプト)
③「キーファクター」(戦術コンセプトを成功させるために選手が意識しないといけないこと)
というのが柱で、考え方としては「集団での目的は何?」で、それを実現するための「戦術コンセプトは何?」で、それを成功させるための「キーファクターこそが選手が学ぶこと」になります。
(制限を加えるノルマなどは今回省略)

僕の中では「プレッシング」という言葉は「集団・チーム全体のアクション」に含まれる言葉で「カバーリング」は戦術コンセプトです。
「自分のマークへのパスカットを狙いながら味方がドリブルで抜かれた際のポジショニングをとる」ことは「キーファクター」になります。

再度まとめると1つの練習には、
①目的:「プレッシング」
②内容(戦術コンセプト):「カバーリング」
③キーファクター:「※上述したようなもの」
(③に関してはたくさんある)
を設定します。
これが1つの練習メニューを作る時に書き出すものです。

実際の練習メニュー

レアッシの育成コースは週に3回の練習ですが、毎回「練習メニュー」を作ります。
手書きでもエクセルやイラレでも、作成するのは何でも良いですが、僕はスペイン留学中に使っていた「Football Aim」を使用しています。
(興味がある方はご連絡ください)

(今日の練習を全部載せたかったのですが、スクリーンショットの関係上、一部になってしまいました。すいません。)

今日のメインの練習の1つは4人組での「守備のプレッシング」。
正直、昨年までは「プレッシング」の練習は一切行いませんでした。
何故なら「公式戦でビルドアップする」チームがほとんどなかったため、選手がプレッシングを実行す必要がなかったからです。昨年は「GKからのロングボールに対する守備」の練習に多くを割きました。
(「本当は小学4年生である程度学ばなければならないプレッシングを必要としない環境」に問題を感じますが、実際の試合で必要ないことを学ぶのはあまり意味がないようにも思います)

チャンピオンシップや小学5年生時の対戦相手が「ビルドアップ」することも考えれますので、細かくはやりませんが、選手にイメージをつかませることは今の時期には大事なことだと考えてます。

この練習の中で選手が何を学んでいるかというと「マンツーマンのマークとゾーンでのマーク」です。
また、「中央の選手とサイドの選手の守備の仕方」や「プレスを間違えたときの対処法」といった「サッカー選手としては必ず身につけておかなければならない戦術」です。

ボールホルダーにアプローチに行く選手の「役割ややってはいけないこと」。
サイドの選手が「やらなければならないこととやってはいけないこと」。
「カバーリングの選手が考えなくてはいけないこと」
など、『サッカーの原理原則』=「低い年代から身につけるべきもの』
をトレーニングを通じて選手が学んでいます。

プレーモデルとの割合と年間の計画

「プレーモデルとは何か?」という質問はここでは省きます。
(興味がある方はコーチへご質問ください)

レアッシのコーチ間で時々話題に上がる練習での「プレーモデルと一般的もしくは普遍的なもの」の割合。
小学生・中学生といった育成年代の選手たちなので難しさはありますが、「普遍的なものを学ばせながらそれがプレーモデルに繋がっている」と少し曖昧なもしくは矛盾するような内容ですが、一番気をつけている部分でもあります。

イメージとしては、主要な試合から遠い時期には普遍的なことを練習して、近づくにつれてプレーモデルの精度を上げる感じです。

「普遍的なもの」は、例えば「パスを受けた際にプレスがきたらボールを動かす」というものです。
「コントロールで動かしても良いし、ダイレクトでパスを出しても良い」
夏頃までにはそのような普遍的なトレーニングを行いました。
または、ボールホルダーへのプレスのかかり具合でのサポートする選手のポジションの高さの調整。
これらはある程度「普遍的なもの」になります。

反対に「サイドへパスを出したら裏へ抜ける」というのはプレーモデルと関係します。
「裏へ抜けた選手のスペースを別の選手が使う」(スペースを作る動きと使う動き)というのは普遍的なものですが、「出したら裏へ抜ける」は僕のプレーモデルの中のコンセプトになります。

今年度のU-10・1stチームは夏前にはリーグ戦から遠い時期(時間がある)なので普遍的なトレーニングを多く行い、夏頃からプレーモデルに関する練習を増やしました。
リーグ戦終了後の冬は次の公式戦(チャンピオンシップ)まで時間があるので、ポジションを変えたり新しいシステムをやったりと一度チームを壊し、冬休みはしっかりとオフ(約2週間休み)を取り、1月は2月にプレーモデルの精度を上げるための準備段階の時期、という流れです。

1回の練習に全てを注ぐ

常日頃選手には「休みの日は練習しなくていい」と伝えています。
その代わり「1回の練習、1つのセッションには頭と身体をフル回転させて臨むよう」に伝えています。
これは1回(90分)の練習の質を上げるためです。
長くたくさん練習するのではなく、短い時間で効率よくこなす。
一見すると「たくさん練習した方が上手くなる」と考えがちですが、「短い練習時間で上手くなる」ならもっとも良いことです。
育成年代では「怪我のリスク」を押さえられますし「燃え尽き症候群」も解消されます。

しかし、「短い時間で効率よく」するなら「質」が重要になります。
「質」が確保されなければ「量」が必要になりますので、そこには指導者の力量が問われることになります。

この「一回の練習の質を上げる」ために僕らが行なっていることを紹介したいと思います。

試合のビデオ分析

レアッシでは試合のビデオをなるべく撮影しています。週末の試合を撮影し、問題点や練習で上手く行っていることなどをチェックし、次の練習に生かします。
必要なら選手に動画を見せて理解を深めます。
もちろん対戦相手の分析も行います。
僕の場合はU-10(小学4年生)を担当していますが、昨年のU-11(5年生)の試合の動画を見ながらこれからどんなことに着手しないといけないかなど分析しています。

細かなトレーニング設定

ジュニアユース(中学生)の場合には「休む時には早めに連絡」ということを徹底していますが、人数と休む選手とでメニューを調整しないといけないからです。
「いつも同じ練習」ではなく、計画に沿って練習が進んで行くので日々練習の直前まで調整します。

僕の例で言いますと、今日の練習でも始まる時間ギリギリまで変更しています。
今日は怪我やインフルエンザなど急な休み(事前に連絡があったものも想定)が出たので、12人設定から11人に変更。
練習の効率を考えると12ならできるけど11人ならできないメニューもあったので直前でメニュー変更。再度メニューを書き直し。

どうしても選手のコンディションや連絡できる状況などを考えると「直前の変更は想定内」にしておかなければなりません。

また、今日の練習では先の図の中であるポゼッショントレーニングのフリーマンを誰が行うかも設定しています。
今回の「4対4+4フリーマン」の練習では、プレッシングがメインではありますが攻撃面では「サリーダ・デ・バロン」(ビルドアップの始まり)をトレーニングさせたいのでGKやCBでプレーすることの多い選手をフリーマンに配置。

「4対4+3フリーマン」は「攻撃のポジショニング」の練習を今後行うために「まずは守備を整理」しましたが、MFの選手とそれに連動したFWの動き方の練習に繋げるために「誰をどこに配置するか」など細かに設定します。

その設定は選手個人のレベルや試合でプレーする状況に合わせたものになっています。

みんなが同じ能力の必要はない

どうしてこのような細かな設定をするかというと「選手全員が同じキャラクターの必要がない」というのも理由として挙げられます。

選手の特徴はそれぞれ違います。
僕が担当しているU-10(小学4年生)でいうと、実に様々な個性が集まっています。

1対1の守備が強い選手。
テクニックレベルが高くポジショニングが優れている選手。
縦への突破が優れている選手。
技術はないが賢さが優れている選手。
荒削りだが推進力のある選手。
縦ではなく面的にプレーできる選手。
背後へのプレーは弱いが前へのプレーが強い選手。

などなど、実に様々なキャラクターがいます。
そのような選手の長所を伸ばし、短所を改善するためには『1回の計画的な練習』が必要です。
「個性の違うメンバーを同じ個性にする」のではなく「それぞれのキャラクターを引き出す」ためには「試合や練習で要求することが異なる」のは当然です。

1回の練習の密度

前述しましたが、選手に1回の練習で100%を出すことを要求するには、指導者側も1回の練習に全てを注がなければなりません。
個人個人違う問題の解決、チーム全体のプレーモデルの浸透、中・長期的ビジョンの現在地、様々な要素を考慮して1回の練習メニューを組むことが必要です。

レアッシでも「もっと練習したい!」という選手が多々いますが、僕らプロの指導者から見て「しっかり休む」という背景には、
「成長するためには練習の質の確保と休みが必要」
という考えがあります。
「毎日たくさん練習した方が良い」というのは幻想です。

しかし、1回の練習の質を上げることができなければ「日数を増やし、選手をサッカー漬け」にすることが必要になってきます。
「質が確保できていないので量を増やす必要」が出てきます。
そこにはメリットよりもデメリットの方がはるかに大きいです。

もし、僕がやっているU-10の練習が平日5日あれば、選手も疲弊することでしょう。肉体的だけでなく、頭の中も疲弊します。
そうすると1回の練習の質を下げる必要があり、ダラダラと1週間を過ごすことになり、慢性的な疲労が蓄積されます。

1回の練習の質を上げるか、質を下げて量をこなすか。
質と量を同時に確保することはできません。

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この記事を書いた人

□スペインサッカー指導者ライセンス レベル1
□選手歴 筑陽学園サッカー部卒
□指導歴
2007-現在 レアッシ福岡FCジュニア,ジュニアユーススタッフ
2009-12 FCバルセロナ オフィシャルスクール福岡校コーチ
2015-2016 スペインバルセロナ在住
2015-16 UE CORNELLA Juvenil B 研修(バルセロナ)

サッカーコーチが学べる情報サイト『ジュニアサッカー大学』を運営