サッカーの基本はテクニックだけでなく状況判断力も
前回、小学生年代の低い年代において戦術的な指導がなされていないという話を書きましたが、その原因として2つの理由が考えられます。
「①低い年代ではテクニックのみが重要であるという考え方」
どうしてもボール操作が未熟な低学年生にはテクニック重視の指導になりますが、偏った考えよりもバランスをとる事が重要です。
ひたすらドリブルを繰り返したり、型にはめてパスしかさせないなどはナンセンスです。
サッカーは「刻一刻と変わる状況の中で、一番ベストな判断をくださなければならない知的なゲーム」であるため、選手が考えてプレーしているということが重要です。
「②指導者側が上手く教えられないケース」
戦術の指導を小学生低学年に教える際に何から始めるのか。また、どのように説明したら選手が理解できるか。ここが一番重要ですがこれこそが選手が戦術的な知識を学ぶキーファクターです。ここが上手くいかないと選手は理解できません。
実際のトレーニング
前回行った「一般の小学生低学年生へのクリニック」の中でのメニューです。僕らがまだサッカーの戦術的知識や理解力が低い選手たちに、「サッカーの原理原則や戦術」をどのように教えるかを図で解説したいと思います。
この日の練習では下図のようにゴールにコーチが立ち、2人の赤チームのどちらかにパスを出してスタートです。赤は両サイドにあるどちらかのコーンの間を通過すればゴールです。青は一人出て来てそれを阻止し、ボールを奪ったらシュートを打てます。
この練習では2対1の状況でどのように前進するかというテーマで行いました。
ここで、サッカーのドリブルには2種類あることを伝えました。
①Regate(レガテ)
レガテとは目の前の相手を抜き去るドリブル方法です。
②Conducción (運ぶドリブル)
コンドゥクシオンとは敵を抜くのではなく、スペースへ運ぶドリブルです。
パスが出されたら当然敵がボールを奪いに来ますが、この時に選手が何を見てどう判断するべきかを伝えます。
上の図のように「敵が正面に来たら1対1で勝負するレガテをするのではなくパスを選ぶ」ほうが安全にボールを前進させることができることを伝えます。
自陣のゴール前で無理に敵を抜くことは危険ですから、ドリブルで仕掛けるのではなくボールを奪われないことが重要であることを選手は理解します。
しかし、相手がパスコースを切ってきた場合、前方にスペースができるのでコンドゥクシオン(運ぶドリブル)でスペースへ自分でボールを運ぶことができます。相手を抜き去るレガテとコンドゥクシオンは異なるドリブルの方法であることを選手は理解します。
つまり、自陣では安全にボールを運ぶためにコンドゥクシオンを使用し、無理にレガテをしないというサッカーのセオリーを学ぶことになります。
この単純な練習で選手は自陣で「いつパスを出していつドリブルするのか、何をしたらいけないか」という戦術を学ぶことになります。このレベルなら小学生低学年でも十分に理解できます。
この時に「コーチが選手のプレーを評価する」際に明確な基準ができ、選手もそれを理解します。「今、敵はどっちから来てた?」と質問すれば選手はドリブルすべきかパスを出すべきかの判断が正しかったのかを理解することができます。
次にもう一歩踏み込んで、パスを受ける選手はどこにポジションをとるべきか、パスを出す選手はどこに出すべきかのポイントも伝えました。これも選手のプレーの成功とミスを評価する明確な基準を設けることになります。
この図のように、「ボールを持っている選手がプレッシャーを受けていない場合は、パスを受ける選手は守備のラインを超えてポジションを取る」ということを伝えました。反対にプレッシャーを受けている場合はラインよりポジションを落とすことになります。
また、パスを出す方には「相手を超えるパスをだすように」と伝えました。
これによって、「いつポジションを高くし、どこにパスを出すのか」ということが選手が理解できるようになります。
例えば図の場合、パスを受ける選手がポジションを下げ過ぎて、せっかくパスをもらったのに相手の守備にひっかかってしまうことがあります。この時選手は、コーチからミスを指摘された時に先ほどの基準と照らし合わせて自分のプレーの悪かった部分を理解できるようになります。
コーチが「パスをもっと前に」とか「サポート」など漠然とした言葉で選手に伝えると選手は理解できません。このような基準を設けることにより、選手はサッカーの原理原則を理解しやすくなります。
以上のような内容でクリニックを行いましたが、低学年生でもきちんと、簡単な戦術を教えれば理解してプレーすることができることを選手が証明してくれました。
良いサッカー選手になるには「感覚的にプレーするのでなくサッカーの原理原則を理解し、そして的確な状況判断を下すこと」ができる必要があります。