ファールするのは「悪いこと」である。
小学生や中学生、高校生といった育成年代の選手にファール(反則)とは何かをどのように教えるか。
単純に「ファール=悪い事」だと決めつけるのは、物事を短絡的に捉えすぎかもしれません。勿論、相手選手をわざと怪我をさせようとする行為は認めるわけにはいけません。
その線引きを正しく行い、選手に正しいことを伝えなければ選手のサッカー選手としての成長の妨げになる可能性もあります。
ファールは「悪いこと」ではない
僕がはっきりと言いたいのは「ファール=悪い事」ではないということです。子供達が一生懸命ボールを奪いに行けば、つい手で相手を抑えてしまったり、シャツを引っ張ることもあります。
中学生年代ではファールになるかもしれないが思いきってスライディングすることもあるでしょう。その結果それがファールになることもあります。
「ファールをしてしまったらコーチにものすごく怒られる」ということがあれば、選手は思いきってボールを奪いに行けないでしょう。「サッカーとは危険なプレーやファールも起きるものだ」という前提が必要です。
一生懸命にやった結果ファールになる、熱くなった結果ファールをしてしまう、というのは人間的にしかたがない部分ではないかと思います。
ファールの代償
単純にファールがいけないと考えるのではなく、「そのレベルによって代償のレベルが異なるルールがある」と考える側面も、「サッカーというスポーツの本質」を選手に伝える上で重要ではないでしょうか。
例えば、中盤でのボールの奪い合いでシャツをつかんで相手のプレーを妨げた場合、ファールを取られ相手に直接フリーキックが与えられます。しかし、シャツをつかんでしまう度合いによってファールだったりファールでなかったりします。
もし相手の決定的なチャンスになりそうな場面でシャツをつかんでしまったらイエローカードが出て、2枚で退場になります。それが「悪い事」というよりかは「ルールでそうなっている」という事です。
しかし日本では「ファールをすることにあまりにも過敏な指導者」も多数います。勿論、僕も試合中に相手がファールをしてるように見えた時には審判にアピールします。でもそれは相手を咎めているわけではありません。
僕自身は「サッカーとはファールする事もあるし、審判にもアピールする。そういうものだ。」という感覚です。
選手にはファールしろとは言いませんが「ファールを覚悟で行かないといけない場面もある」「ファールすらできない守備は軽すぎる」という表現を使うこともあります。これは「サッカーの本質」でその中の一部にファールは起きるものだという認識があります。それが人間として良い事か悪い事かという疑問はありません。
ファールを許さない指導者
以前自分の試合でも実際にあった話ですが、相手の監督はやたらすぐにアピールします。「ファウルだろ!」「引っ張ってるよ!」「押してるよ!」とちょっとしたプレーでもすぐにファールをアピールしていました。しかし審判がそれをファールと認めなければファールではありません。
そして自分のチームの選手にこう言いました。「お前ら、絶対にファールだけはするなよ!」
???
ファールする事は悪い事で、フェアではないというのであれば、審判が取らなかったジャッジに文句を言うのはフェアなんでしょうか?
もしファールが悪いことなら、ルール上、ファールしたら即PKでも、一度でもファールしたら退場というルールになっているはずですが実際はそうではありません。
このケースのファールにはこのような代償、というのはルールで決まっています。
繰り返しますが、相手を故意に怪我をさせようとする行為はスポーツマンシップを欠いていますし、許されることではありません。
しかし、「ファールとは何か」ということをきちんと選手に伝える役割が指導者にはあります。
日本とスペインのファールに関する考え方の違い
レアッシでスーパーバイザーをしている坪井健太郎氏のスペインと日本のファールに対する認識の違いに関する興味深い記事がありましたの紹介します。
「賢くファールする レアル・マドリードの重大なミス」
その記事の中で「ルールに縛られてプレーする日本、ルールを活用してプレーするスペイン」という表現が使われていたのはとても示唆に富んでます。
ドリブルという行為が危険であるスペイン
日本の育成年代だとどうしてもファールをすることは悪い事であるという固定観念から、ボール際の甘さがよく問題になり、反対に「海外の選手は球際が激しい」という言葉はよく耳にします。
以前も書きました、スペインでのドリブルというテクニックアクションのデメリットの中に「怪我をするリスクがある」というものがあります。海外ではドリブルする選手は激しくプレスをかけられるので怪我のリスクがあるというものです。
日本国内でドリブルが上手いが海外では…
もし、ファールが悪いことと教えられ、その結果球際の激しさがなくなったら、少しドリブルが上手い選手を止める事は難しくなります。ある育成年代のチームがドリブルで相手チームを翻弄する試合を見た事がありますが、正直に言ってドリブルが上手いというよりは守備のレベルに問題があるため、すごいドリブルをしているように見える、といったものでした。おそらく海外なら「ガツンとやられてそれで終わり」というものでした。
日本でドリブルが上手いのが良い選手という間違った考えが起きるのは、そういう海外との比較を育成年代の指導者ができていないことも大きな要因かもしれません。
「サッカーとは知的なスポーツ」であると僕自身は思いますし、海外のサッカー先進国はどんどん進化して行っています。また、複合的で複雑なスポーツですから、何かを簡単にもしくは短絡的に考えることはできません。
「ファールとは何か」という問題も一度深く考察することが必要かもしれません。