私がサッカーを本格的に始めた約25年前から現役を引退した約10年前まで一貫して言われていたのが「個の力を伸ばすには1人で行える個人トレーニング(例えばコーンドリブルやリフティングなど)が重要であり、それを行う事によってテクニックが身につく」というものでした。
私自身もそういった経験則に基づいて指導者として活動し始めた1年目から5年ほどはその考えに疑問を抱く事はありませんでした。しかし指導者として6年目を迎えた時に渡ったスペイン・バルセロナでの経験が大きな転機となり、「個人トレーニングを行わなくても（時間が少なくても）個人の成長を促せるのではないか」と考えるようになりました。
チームトレーニングでも個の能力は大きく成長させられると考えたきっかけとは
それは初めてアシスタントコーチとして加入したチームで活動している中で、ある時監督がクラブ内での打ち合わせが長引いて練習に遅れるから冒頭の10分ほどのウォーミングアップを任せると言い、その時に行ったリフティングで13歳の選手達がほとんど10回程しかできなかった時でした。彼らは日本でいう県リーグ1部で上位争いをしているチームに所属し、練習でも私が15年近くサッカーをして指導者も5年やっていても意識した事がなかった細かい戦術を監督に要求され、それを試合で実行している選手達にも関わらずです。
では実際にどんなトレーニングを行っていたのか
そしてバルセロナ滞在最後のシーズンとなった4年目に私はU12とU14の監督をしていたのですが、U12は練習は週に平日2回・75分・使えるグラウンドの広さは日本のジュニアの試合を行うコートの1/3程度しかありませんでした。さらにクラブからは優勝と昇格を求められており、その環境では個人トレーニングを行う事は効率的ではないと考えました。そこでそういったトレーニングはウォーミングアップがてら練習の冒頭10分ほどサーキットトレーニングの中に組み込む程度にし、あとは少なくとも3人以上でグループやチームでプレーしテクニックと戦術を同時に向上させられるメニューを取り入れました。
どうやればグループでトレーニングを行いながら個を成長させられるのか
しかし個人の成長なくしてチームの成長は達成できませんし、その逆であるチームの成長なくして個人の成長もないと考えて私はグループでトレーニングしながらいかに個人へフォーカスするかに注力しました。例えば14人の選手で6vs6+2フリーマンという形式のボールポゼッションを行なってもA選手とB選手の起こすミスは異なります。そこを見ず、グループでトレーニングしているからと画一的なコーチングをしていては、それをすでにクリアしている選手の成長には何も寄与しないのです。選手の成長の為にはできない事や知らない事をできるように変化させたり理解させる必要があるのです。だから同じメニューでもポイントを3つクリアしている選手には4つ目を意識させ、1つ目で苦戦している選手にはそれをクリアできる為のコーチングを与えなくてはいけません。だから本当の意味で個人を伸ばすトレーニングとは1人でできるメニューをやっているかどうかではなく、選手一人一人に目を配ってそれぞれに適したコーチングができているかどうかなのです。集団を見ながら個人にスポットを当てる、言葉にすると簡単そうですがなかなか難しい指導に我々は日々挑んでいます。
サッカー界の意識を改革しなくてはいけない
現在レアッシに所属している選手が入団前に体験練習へ参加してくれた際に「レアッシはパスサッカーだから個人練習が多いチームに行った方がいいかと思ったけど、練習してみたらみんなで練習するけど色々知らない事を学べて楽しかった」と言ってもらえたことがありました。これが全てだとは思いませんが、1人でやる練習が少ないところは個人よりチームを優先して選手がうまくならないという誤った認識がサッカー界にあるのは事実です。しかし改めて声を大にして言いますが【グループやチームで練習する時間が長いチームでも、その中で個人を正しく評価し改善できる指導者がいれば選手は確実に成長できます。】
